「まんがseek」における漫画家の定義について(『鳥獣戯画』はマンガなのか)
利用者の方からこんなメールをいただきました。
漫画家の定義の記載がありません。私は北斎は漫画家に入れていますが、どこまで含んでいますか。
たしかに定義を書いてなかったですね。
(ちなみに通常はメールをいただいた場合はメールで返事していますが、今回は返信先のメールアドレスの記載がなかったのでこの場を借りて回答します)
以前、「まんがseek」における作品と商品の関係性について書きました。
ここでふれた「作品」にかかわった人を「漫画関係者」として人物データベースに登録しています。
なのでまず最初に申し上げておくのは、「まんがseek」に登録された人物データは、そのすべてが「漫画家」ではないということです。
具体的には原作者も含みますので、小説のコミカライズ作品の場合は、小説家が原作者として登録されています。また、原案や監修といったかたちでの協力者も含んでいますので、お医者さんや弁護士なども登録されています。
人間じゃないケースもあります。これも以前書いたのでリンクしておきます。
企業やプロダクションの名前がクレジットされていることもありますので、そういう場合はそのままクレジット通りの名前で登録しています。
その際、法人の場合はそれがわかるようにフラグで区別しています(表示の際もアイコンでわかるようにしています)。
マンガ作品の登録対象
データベースの登録手順としては、まず「人物」が必要なのですが(すべての作品はひとり以上の人物にぶら下がるため)、登録の判断は「作品」に依拠しています。
では登録対象となる作品の基準はどうかというと、基本的には
日本の商業出版社の媒体に掲載されたマンガ作品
ということになります。
なので現時点では同人誌は含んでいません(個人的にはいつか着手したいし網羅したいと思ってますが)。
また「その絵(と文章)がマンガかどうか」は個人によって差がありますのですが、今回ご指摘いただいたような葛飾北斎の作品(おそらく『北斎漫画』などの絵手本を想定されていると思いますが)は含んでいません。
同様に『鳥獣戯画』もマンガだという見解があることは十分承知していますが、現状「まんがseek」では扱っていません(まあ『鳥獣戯画』の場合は作者不詳なので登録できないという問題もありますけどね)。
絵物語や挿絵つき絵本など、小説とマンガの中間に位置する作品形態の判断はひじょうにむずかしいです(ライトノベルなどもそうですね)。
あるいは1コマ漫画というのはイラストとどうちがうのかというのもあって、ぼくらとしても明確な基準がないまま、ケースバイケースで判断して登録しているのが現状です。
そして発表媒体も紙だけをチェックすればいい時代ではなくなりました。
ウェブサイト上やアプリなどで発表されるケースも増えていますし、それにともなって「商業出版社」以外のマンガメディアも出てきています。
このあたりはなるだけ柔軟にとらえて、なるだけ登録していく方向で考えています(ただし誰でも自由に投稿できるサイトは対象外としています)。
終わりに
話を整理すると、「漫画家」の定義をするにはそもそも「マンガ」を定義しなければなりません(「マンガ」を描く人が「漫画家」なので)。
マンガを定義し、さらに必要に応じて(まんがseekの場合は「商業誌」の掲載を条件にするといった)追加の基準でもって登録対象は決まります。
だけどそもそも「マンガ」の定義自体がひじょうに困難で、誰もが納得する定義なんて存在しないのかもしれません。
ぼくらも定義が曖昧であること、未来において変更する可能性があることを踏まえて、日々のデータベース構築作業を進めています。
今回の説明は、あくまでも「まんがseek」のしかも「現時点」の基準でしかありませんので、その点はご了承ください。
ただ、ぼくらもより適切な基準に修正していきたいと思ってますので、「こう捉えたらどうか」とか「こういう基準のほうが明確になるんじゃないか」といったご意見はぜひお寄せいただけるとうれしいです。
紫綬褒章を授与された漫画家の先生一覧
先日あらたに作成(分離)した漫画賞DBにあわせて、これまでテキストで入力していた受賞歴データをみんなとメンテナンスしていたところ、「紫綬褒章」という文字列を何度か見かけました。
いや、言葉としてはニュースなどで聞いているので知っているんですけど(なので「しじゅほうしょう」と読むことも知ってます)、これがいったいどういう賞なのかまでは知りませんでした。
内閣府のサイトによると(内閣府のサイトなんて見たのいつ以来だろう)、授与対象として
科学技術分野における発明・発見や、学術及びスポーツ・芸術文化分野における優れた業績を挙げた方
とありますね。
例年、春(4月29日)と秋(11月3日)の2回、授与されるそうです。
「学術、芸術、スポーツ分野」ということなので、学者のほか、スポーツ選手、(囲碁や将棋の)棋士、俳優、落語家といった職業の方が受賞されています。
紫綬褒章を授与された漫画家
せっかくなのでデータベースから抽出してみました。
赤塚先生はじめ、有名ドコロの大御所の先生方がのきなみ並んでいますね。最近だと2014年に、しりあがり寿先生と竹宮惠子先生が授与されています。
- 大友克洋
- 岡部冬彦
- 加藤芳郎
- 黒鉄ヒロシ
- 小島功
- 西岸良平
- さいとう・たかを
- しりあがり寿
- 杉浦幸雄
- 田河水泡
- 竹宮惠子
- ちばてつや
- 萩尾望都
- 長谷川町子
- 弘兼憲史
- 松本零士
- 水木しげる
- 水島新司
- 馬場のぼる
- サトウサンペイ
- 横山隆一
- 鈴木義司
- 長新太
- 小林治雄
- 近藤日出造
- 久里洋二
- 富永一朗
- 宮尾しげを
- 横山泰三
- 東海林さだお
ただ、こうやって見てみると手塚治虫先生の名前がないことに気づきます。石ノ森章太郎先生も、藤子・F・不二雄先生もいません。
じつは手塚先生は勲三等瑞宝章(ずいほうしょう)を1989年に、石ノ森先生は勲四等旭日小綬章(きょくじつしょうじゅしょう)を1998年に授与されています。
F先生はまだ授与されてないみたいですね(ぼくがえらい人ならすぐに授与するのに!)。
ちなみに瑞宝章は「公務等に長年にわたり従事し、成績を挙げた方」、旭日章は「功績の内容に着目し、顕著な功績を挙げた方」を対象として、いずれも「国家又は公共に対し功労のある方」に授与されるそうです。
なぜ手塚先生が瑞宝章で、石ノ森先生が旭日章(旭日小綬章)なのかはわからなかったです。
なお、やなせたかし先生も瑞宝章を、藤子不二雄A先生やわたなべまさこ先生は旭日小綬章を受賞されてました。
この手の賞は自分がもらうことはまずないので気にもとめてなかったのですが、こうして漫画家の先生方が授与されているのを知ることで、ちょっとだけ身近に感じられるようになりますね。
またおもしろそうな受賞データがあれば紹介したいと思います!
p.s.
余談ですけど、関根義人先生はなんと警視総監賞を1982年に授与されてました。
漫画賞のデータベースをつくりました
漫画賞のデータベースをつくりました。
たとえばこんな感じです。
これまでも人物データ、作品データそれぞれに受賞歴欄はあったんですけど、専用のデータベースにしました。
なんで漫画賞専用のデータベースをつくるのか
ひとことでいうとメンテナンスが楽になるからです。
たとえば2014年に上記の手塚治虫文化賞を受賞された羽海野チカ先生の「3月のライオン」という作品があります。
この作品は、ほかにも
といった賞を受賞しています。名作ですからねえ。
で、こういった情報を人物データにも、作品データにもそれぞれ入力するようになっていたのですが、まったくもって非効率だし、なにより入力漏れが起きやすいです。
(でもWikipediaってこういう仕組みなんですよ)
受賞歴専用のデータベースを用意することで、1回登録するだけで両方に反映させることができるようになりました。
ほかにもメリットがあります。まさに冒頭のリンクのように漫画賞ごとのページをつくれるようになりましたし、入力の際の誤表記を防げるようになりました。
H☆S賞?
じつは今回、もともと文字情報として入っていた受賞歴を書き出して、それをちまちまとExcelでチェックしていたのですが、かなり表記に揺れがありました。
「文芸春秋漫画賞」と「文藝春秋漫画賞」みたいなのはまだいいんですけど、「イキマン」が「月刊IKKI新人賞」となっていたり、「ホップ☆ステップ賞」が「ホップステップ賞」や「ホップ★ステップ賞」になってたり「H☆S賞」なんてのもありました。
これは人間が入力する以上しょうがないんですけど、漫画賞そのもののデータベースをつくってしまえばプルダウンから選んでもらうことで表記の揺れがなくなります。
ほかにも1978年からつづいている「小学館新人コミック大賞」という歴史ある新人漫画賞があるのですが、以前は児童部門は「藤子不二雄賞」、一般部門は「ビッグコミック賞」、ヤング部門は「スピリッツ賞」という名称で開催されてたりして、ややこしいんですよね。
(しかも「スピリッツ賞」という賞はいまは月例新人賞の名称で使われてます)
文字情報で入れていくのが仕組み的には簡単なのですが、それによって生まれる弊害も無視できないなと考えて、今回受賞歴のデータベースをつくることにしました。
漫画賞の歴史
少女マンガ誌は「〜スクール」という月例賞を設けることが多いですけど、『りぼん』の場合、
- りぼん漫画スクール
- りぼんNEW漫画スクール
- りぼん漫画スクール2001
- りぼん漫画スクール+(プラス)
という変遷で名称が変わっています。ちなみにその前は「りぼん新人漫画賞」でした。ぼくが読んでた頃は「りぼんNEW漫画スクール」だったなあ。
編集長が変わったりするタイミングでけっこう漫画賞(とくに新人賞)ってリニューアルされてるんですね。気にしたこともなかったです。
たしかに『週刊少年ジャンプ』もさきほどの「ホップ☆ステップ賞」以降、「天下一漫画賞」→「十二傑新人漫画賞」→「トレジャー新人漫画賞」と変わってるんです。なのにデータベースには「週刊少年ジャンプ月例賞」としか書いてないのもあって、受賞年を頼りにどの賞かを特定したりしてました。
Wikipediaが頼りにならない
漫画賞の一覧をつくるために、ここ2週間くらいはずっと調べまくってましたが、まあ大変ですね。
とくにWikipediaが頼りにならないのがかなり困りました。最大の理由は「まんがseek」で出版した『漫画家人名事典』の情報が引用されているため、けっきょく同じことしか書いてないケースが多いからなんですけど。
ほかにも今回ぼくがチェックしただけでもまちがってる情報がそこそこあって、もちろん8割方は正しいのでそれで十分なケースもあるんですけど(なのでぼく自身Wikipediaのヘビーユーザーですし)、正確を期さなきゃいけないケースにおいては資料価値を下げざるをえないんですよね。
すごく助けられたのが、むかしから漫画評論を書かれている方々のブログやウェブ日記でした。当時はブログなんて呼んでなくて、たんに「個人ホームページ」と呼んでましたね。
そういう方々が正しい名称を書いてくださっていたり、「○○賞をリニューアルして、△△年にはじまった」と前後関係や創設年をメモしてくださってたり、受賞者が記載されたページの写真をアップしてくださってたりしたので、何割かのデータがうまく分類できました。
ほんとうにありがたいです。
現在は「まんがseek」でも可能なかぎり現物のキャプチャを撮って記録するようにしています。こんな感じで。
余談ですけど、そのWikipediaをコピーして書かれてるサイトもたくさんあるので、もしかしたら最初のまちがいを世に出しちゃったのが「まんがseek」かもしれないなあと少し申し訳なく思いました。
ただ、出版社のサイトでもまちがってることがあるので、ほんとうにリアルタイムに現物ベースで記録していかないと、あとからさかのぼって補完するのはほんとうに大変です。
(そのうち時間をつくって国会図書館とかで現物を見ながら補完しなきゃいけないかなあと思ってます)
データのメンテナンスを助けてください
存在を確認できた古今東西の漫画賞を210個登録しました。とはいえまだまだスカスカです。漫画賞の詳細(創設年や終了年など)も抜けてるのが多いですし、受賞者一覧もほとんど入ってません。
(新人賞の場合はその後デビューにいたらなかったケースもあるので抜けちゃうのはしょうがないんですけどね)
これから少しずつ抜けてるデータを登録していきたいので、ぜひ手伝っていただけるとうれしいです!
最後に、なぜぼくらがこんなデータベースをつくっているのかについて少しお話します。それは「ぜったいに探しているマンガが見つかる」データベースをつくりたいからです。
「まんがseek」をつくるきっかけになったのは「さくらももこ先生のデビュー作はどこで読めるのか」という雑談だったことは以前書きましたが、いまぼくらが手がけているこのデータベースは、基本になっている、いつ・誰が・どの雑誌に発表したかという情報と、その作品がどの商品に掲載・収録されているかという情報に加えて、今回の漫画賞のような付随情報も網羅していくことで、定型化・構造化できるすべてのマンガのメタ情報を記録しようとしています。
自分と同い年の漫画家、自分と同じ出身地の漫画家、自分の誕生年に発表された作品、「キン肉マン」と同時期に『週刊少年ジャンプ』に連載していた作品、講談社漫画賞を受賞した作品、などなどデータベースが整備されればマンガを見つけるのが容易になります。
その上で、いろんな人のオススメを集めていけるといいなと思っています。
正確で膨大なデータベースがまずあって、それ単体でも縦横無尽にデータを特定することができるんだけど、さらに個々人の趣味嗜好にあわせてマンガがピックアップされるような世界をつくりたいのです。
マンガの数(作品数)はざっと10万強だと伺ったことがありますが、とても生きてる間にすべてを読むことはできません。
それは諦めるとして、でもちゃんとしたデータベースがあれば死んだあとに「読んどきゃよかった! それ知らなかったわ!」という悲劇は減らせます。
ぼく自身もっともっとマンガを読みたいので、いっしょにこのプロジェクトに参加して世界最大のマンガデータベースをつくりましょう!
ちなみにいまは「ちはやふる」を毎日1冊読んでます。まだ5巻ですけど、めちゃくちゃおもしろいですね。